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ICU.CCU.ER.COVID-19 感染者病棟で勤務しています。このblogでは『健康になる。健康を維持する。』をテーマにした記事を投稿します。

【人生会議】DNRってなに?【やっときゃ良かった】

Nurs.編集部です。本日は知ってる様で知らない「DNR」についてお話ししていこうと思います。病院系ドラマとかでよく見る「DNR」。実は「Do Not Rescue」の略で、致命的な事象が起きた時は救命をしないでください。の意思表示なんですね。でも致命的ってどこまで?そもそも病院にいるのに救命しないってどういう事?現役コロナ病棟看護師が詳しく解説していきます。

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1.DNRはこんな時に承諾書をもらっておきます

DNRの同意はこんな時に取得します

DNRとは「どんなに処置を施しても予後の改善は厳しいな」と思われた時に本人や家族にお話し同意書類を取得します。具体的には「一時的な改善は見込めるけど結局亡くなってしまうだろう。」「そもそも高齢だし、こうなってしまっているのは老衰が原因と思われる。病院で何もできる事はない。」「進行癌の末期で何も手をつけられない。医療の限界だ。」こんな時にDNRの同意書を本人やご家族にお渡しして署名してもらいます。

一度DNRの意思表示をしたらもう覆せない?

ただし予後が不良と思われても本人の命は医者のものでも家族のものでもありません。同意書を書いたからといっても、その内容はいつでも取り消す事ができます。ただし処置を行わなかった事によって体の機能が失われてしまった場合は取り返す事が難しいかもしれません。ですのでDNRを希望しない場合は場の雰囲気に流されずしっかりと医師に話を聞きましょう。混乱してしまってよく分からなかった場合は、希望すれば別のにIC(インフォームド•コンセント。病状説明の事)を設定してくれます。また内容が難しすぎて分からなかった場合には同席している看護師さんに聞いてみましょう。より患者さんの立場に沿って分かりやすい言葉で説明してくれるはずですよ。

命って誰のもの?生命倫理の話

患者さん本人の意識がなくなってしまった場合、今後の処置の方針は家族に求める事になります。例えば「もう手がつけられない状態になってしまった。処置をしても元通りのお父さんの状態に戻れないかもしれない。」「治療を継続しても苦痛を与えることになるだけかもしれない。治療を中断すべきだと思う。」‥病状の理解が進んでいないままいきなりこんな話をされても驚いてしまいますよね。場合によっては「家族が入院している事を初めて知った」なんて事も多々あります。しかもこんなお話を本人ではなく家族にしなければならないのは緊急事態であることが多いです。看護師の私から見ても家族も混乱しているんだな、と見受けられる場合が多いですね。もしそんな事態に遭遇した時は、是非こう聞き返してあげて欲しいです。

 

「(患者さん)は何て言ってましたか?」

 

言うまでもない事ですが、自分の命は自分のもの。家族のものでも親戚のものでもありません。でも意図せず本人に病状説明ができなくなってしまった場合、治療方針を家族に委ねざるを得ない場合が出てきます。

そんな時は苦しくても本人の希望に沿った医療を選択してあげて欲しいなと心から願ってやみません。本人は「楽に死にたい」と言っていたのに家族の願いで無理に治療を継続した結果、植物人間になってしまった人を何人も見てきました。それって本当に患者さん本人が望んでいた事なんでしょうか。

 

以前、芸人の小籔さんが「人生会議」のポスターの件で炎上していましたが私は全く不謹慎と思いませんでした。「他人」の選択で今後の人生を「植物人間」として生きなくてはいけなくなるってどう思いますか。もしもの際の治療を望む望まないに関わらず人生会議をしておく事はすごく大切な事だと思います。

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2.施設と病院で意味が異なる「DNR

病院でのDNRについて

病院では治療をメインに進めていきます。ですのでDNRは基本的に治療の限界をどこにする?という話になってきます。具体的には

  • 昇圧剤の使用
  • 人工呼吸器の使用
  • 心臓マッサージをするかどうか

になってくる事が多いですね。

基本的に同意書はこの「3点全ての治療を放棄します」って形式になっている事が多いのですが、部分的に希望する事もできます。何故なら疾患によっては昇圧(血圧を上げる)はして欲しいけど人工呼吸器や心臓マッサージをしなくてはならなくなってしまったら厳しいなというものもあります。ですので同意書を書いたからといって全ての処置を放棄する必要は全くなく、なぜこの3つの治療を放棄する必要性があるのか、医師に問い合わせて理解してから記入しましょう。繰り返しになりますが、同意はいつでもどの段階でも取り消す事ができます。後悔のないよう納得できるまで医師の話を聞きましょう。できれば「人生会議」もやっておきましょう。

施設でのDNRについて

施設は終の棲家という位置付けなので、何かあった際は

  • 救急搬送を望む
  • 提携している診療所の判断に任せる
  • 看取りを希望する

になっている事が多いです。ただ高齢者は基礎疾患も多く治療しても完治は望めない場合も多々あります。ですので多くの場合、すぐにその場での積極的治療は希望されない方が多く、「提携している診療所の判断に任せる」になっている事が多いですね。施設は病院と異なり個室になっている施設が多いので亡くなる方は死亡してから数時間後に発見されることが多いです。また施設に入所している場合、大抵看護師さんは1-2名しかいないので看護力に限界があり、「積極的な治療をするなら病院へ」となってしまう事が多いです。逆に「痰の吸引処置」や「食事介助」「排泄介助」「鎮痛•鎮静」などは病院よりも積極的に行う事も可能です。少し話が逸れてしまいましたが結論「施設では緩和はできるが積極的な延命はできない」事を予め承諾してから入居するという方針になっている事が多いようです。

 

3.「DNR」と似て非なる「BSC」

近年使われ出したBSCという言葉の意味は「Best Supportive Care」で「最大限の援助をしますよ」という事です。実は「積極的な治療を行わない」という店ではDNRと何ら変わりませんがDNRをよりポジティブに言い換えたような意味になっています。印象としては医者はDNR、看護師はBSCと言う事が多いですね。DNRは治療の限界を意味し、医師としてはもう何もできる事はありませんよという事と同義なのですが、看護者が死に向かって行う援助は(家族や本人の心理的ケアなど)まだまだあるのでBSCと言う事が多いからだと感じます。

どちらの言葉を使っても結局すべき事は一緒なのですが、私は個人的にBSCの言い方の方がポジティブな気がするので好きです。医学的に出来ることが何もなくなく、方針がDNRになったとしても患者さんのゴールがより良い「死」のための道を模索していくBSCの方向になっただけなのですから。死は敗北ではありません。ただゴールが変わっただけなのです。

4.追加情報あります

 施設看護を行なっていくために必要な看護についてまとめました。よろしければこちらもご覧ください。